あのとき

 

また旅にでる。

たいした旅ではない。

息抜きに、ふらりとすこし外へ遊びにでるだけだ。

「おかあさん、夕飯までには帰るから!◯◯ちゃんといっしょー」

そう言って、学校から帰るやいなや

玄関にランドセルを放り出して遊びにでる。

あの頃のあれと、まったく同じだ。

 

十何年も前には、幼なじみといっしょに長い旅にでた。

あのときは二ヶ月間も彼女といっしょにいて、

幼かったこともあって、

心底お互いが嫌になった。

それっきり、その幼なじみとは二人っきりでは決して会わなくなった。

 

もう一生、だれとも長い旅にはでないことにしよう。

そう誓ったそばから、わたしは結婚をした。

結婚なんて、だれかと長い旅路を共にすることと同義ではないか。

矛盾にもほどがある。

しかも、その結婚のお披露目のパーティーで、

その長い旅を共にした幼なじみのBに、私はある文章を手渡すのである。

 

「本日は、私達の結婚披露パーティーにお越しくださり…」

で始まる、カップルが最後に来賓者達へ渡すサンキューカード。

そこへ、わたしは彼女宛てにわざと汚い文字で書きなぐった。

 

「またBと、旅にでれたらいいなと思ってます。」

 

ぎりぎりまで、それを彼女に渡すべきか否かすごく悩んだ。

悩んだ末に、にこやかに渡した。

読んで、幼なじみはさぞや苦々しい気分になることだろう。

お互いあれだけ嫌な部分を見せ合ったのだから、と内心は思いながら。

 

手渡した後、彼女がその文章に触れてくることはなかった。

二人っきりで会うことも、やはりなかった。

 

それからまた数年。

私は結婚はしたものの、こどもはもたなかった。

生活じたいは結婚する前と特に変わりはない。

Bは、結婚もせず、こどもももたなかった。

お互い親が老いてはきたが、まだ完全介護とまではいかない。

 

昨年、突如Bより連絡があった。

「休みが取れそうなんだけど。旅行しない?」

 

こんにちは、も、元気?も、ない。

なんの前置きも無し、本題のみのメール。

読んで、びっくりはしたものの

もう返す腹はきまっていた。

 

「いいよ。島行きたいんだけど」

「島、いいね!」

 

なにせ幼なじみだ。

何に興味があって何に全く興味がなくて…の領域が、とても近い。

それからの話は早かった。

 

彼女に、我慢できない部分がある事に

あのときも今も、変わりはない。

私自身に、彼女が我慢できない部分がある事にも

あのときも今も、変わりはないだろう。

いずれにしろ、私達はまた旅にでて、おもしろく過ごした。

 

そしてまた、これから旅にでる。

相手はあの彼女だ。

 

「Bと、遊びにいってくるね」

「仲直りしたの?」

「べつに、してない。それ以前に、喧嘩もしてない」

 

わかりやすく喧嘩もしてないのに、

もう二度と会わない人なんて山ほどいる。

そう思えば彼女とのこの関係は、

儚くもろくも、なんと貴重なことか。

 

とにかく、旅だ。