某日。
運転免許の技能試験。
担当教官がサンドイッチマンの金髪の方に似ているのを見た刹那
「むりかも」と思ったが、無事通った。
運動神経がわるく、なにかにつけて技能の覚えが悪かったものの
いったん体が納得してしまえば、大丈夫なようだった。
柳沢慎吾みたいな間で教える教官もいて、
おもしろい部分もあった。
感謝している。よくぞ人は人に教えるものだ。
なんて大変なことだ人が人になにかを教えるって。
なんにしろ、ムショ通いのようだった生活よ。
さらばだ。(ビュッ!!←走り去る音)
某日。
縁あって、近所の学童保育のワークショップの見学へ。
もしかしたら、スタッフめいたものをやるかもしれない。
まず。うまれたばかりの細胞みたいな
なまなましく元気なこどもらが
一斉に、体育館じゅうにウジャウジャどわわといる、のを見る。
そして、こどもらを下の名前で呼びつけて点呼する
先生たちの、手際のよさと夢のようなパワフルさ、ユーモア、
機知、を見る。
気が遠くなる。
「わたしにかれらのようなこどもの指導は、むり」
とニコニコ白眼をむいて微笑みつつ
後頭部をビリビリとしびらせつつ、思う。
だけど、いったんこどもらが席について、
ワークショップがはじまってしまえば、大丈夫だった。
ように思う。
「はじめまして。わたしは、マルーといいます」
「マル?マルー??何人?」
「こう見えて(こどもらの反応ナシ)純日本人です」
「顔が丸いからマルーなのー?」
「そうです(めんどうなのでそういうことにする)」
「えっ、そうなんですか(学童のスタッフTちゃん)」
こどもらは、物珍しい、変わったおとなにやさしい。
わたしが女のこどもたちにたのまれて
絵を描いていると、真剣に「おおお」とよろこんでくれる。
絵を描いて、よろこんでもらえると、嬉しい。ほんとうに嬉しい。
これはもう物心ついたころから、かわらない。
プリミティブなよろこび。
そしてつい、おもしろくなって黙って描きつづけていたら
「マルーは絵を描くのが、すきなの?」と聞かれる。
「うん。この世で一番好き」と、思わず知らずつよい言葉がでる。
自分でも「この世で一番」なんて過激な言葉がでたことに、おどろく。
女のこどもたちも、一瞬たじろぐのがわかる。
「この世で一番…」
「うん。そういうのある?なくていいんだけど。なんでもいいし。食べることとか」
なぜだかすごくはずかしい。
「え〜…」
女のこどもたちは目を見合わせて笑って、言葉を濁した。
その笑い方。気をつかわれたな、と思う。
そうだよね。そんな大事なこといきなり聞かれてもわかんないし
わかったとしても言うもんでもない。愚問だった。
男のこどもたち。
絵を見ていて「おもしろいね」と素で言うと
話しかけられたことに戸惑いもせず、勝手に説明しながらグングン絵を描いていく。
頭で考えた目的なく描いていく。描くのが終わると、それを振り回して遊ぶ。
そうしてしばらくすると、さびしそうに「もう、帰ってもいい?」と聞く。
ワークショップが終わると、階下のろうかに居並ぶ
蚕たちを見にいった。
この小学校では、こどもたちが蚕を飼っているのだ。
しゃりしゃり
しゃりしゃり
しゃりしゃり
真っ白い蚕たちが、もくもくと葉っぱを食べつづける音だけがする。
夢をみているような気分になる。
「蚕って、さわるときもちいいんですよ」
学童スタッフのTちゃんが教えてくれる。
本当は虫全般苦手なのだけど、
「これは猫だ」と思って、白い体を撫でさすってみる。
まさに、絹のようなしっとりとした手触り。
「これを、下唇にあてるとさらにきもちいいんですよ」と、さらにTちゃん。
そこまでは、しない。
さっきのワークショップにいたちいさな女の子も、
いつのまにかそばに、来ていた。
「そのうちみんな眠(みん)に入って、それからからだのまわりが
黄金色のおしっこでパンパンになって、そうして繭になるんだよ」
それを聞いて、なんと、黄金色のおしっこでパンパンになるのか、
と、うっとりとする。
「すごいね。神話みたいだね」と、返す。
「うん。そうなの」
彼女はランドセルをぶらぶらさせながら、
なかなか家に帰ろうとしない。