御蔵島へ

 

7月某日。

 

夜10時、竹芝桟橋に友人Bとまちあわせる。

船の乗り口がわからず、同じく乗り口を探している初老の男性に

トコトコとついていって、男性が係員に場所を聞いているのを横で盗み聞く。

「まさか外とは思いませんでしたね」とその男性と喋りながら

受付所の外の乗り口までまたトコトコと歩いていく。

ビールを買って、船に乗りこむ。橘丸。新しい船なのだそうだ。

 

欄干に出ると見たことのない景色が広がっていた。

「すげえ」「やばい」「すげえ」とアホなラッパーのように

同じ言葉を連発しながら写真を撮りまくる。

「海の上はどこよりも異国」とBが言う。

レインボーブリッジをくぐりぬけ、みなとみらいを過ぎ、

工場群をぬけると、辺り一面が漆黒の闇になった。

原始から人が畏れる闇だと、Bと語り合う。

 

早朝、三宅島には無事寄港した。

だがアナウンスはぎりぎりまで、次の御蔵島に寄港するかどうかは、言わない。

御蔵島到着時間をだいぶ過ぎて、ようやくアナウンスが告げる。

「御蔵島にお降りのお客様は乗降口にお集りください」

「五分五分だな」

島民だろうか、慣れたふうの人がそうつぶやくのを聞く。

見渡すと、遺影を胸に抱いている人もいる。

船がゆれる。潮が荒い。

 

やがてロープが港に渡され、無事船が寄港したことを知る。

「よかった、よかった」とまわりの人々とともに拍手をした。