蜂、かなしい映画、夜を泳ぐ

 

雨がふったり、雷が鳴ったり、晴れたけどまた曇ったり、の1日。

 

Tの家に遊びにいく。

庭で話していたら、スマートな姿形の青黒い蜂がブーンと近くまで飛んできた。

すると蜂、かたわらの植物の葉っぱにかじりついて

器用にサクサクザクザクと葉っぱを半円形に切り取りはじめた。

「…おおお!かわいいっ!!」

Tとともに、しばらく固唾を飲んで蜂の動向を見守る。

やがてものの数秒で綺麗に葉っぱを切り取ったスマートな蜂は

自分の体と同じ大きさほどのそれを6本の手足でしっかと腹側に持つと、

重そうに、最初はバランス悪くヨタヨタ、

そのうちふわーんと何処かへまた飛んでいった。

「あれで巣をつくるんだ」

「かわいかったね」

「なんでああ、かわいいんだろうね。無心だからかな」

などとTと話す。

 

Tが作った、という南瓜のクラフティをいただく。おいしい。

もぐもぐ食べていたら、台所からTが「見て見て〜」といって

甘いシロップの入れ物を手にやってきた。

見ると、入れ物のキャップのフチに、黒いものが点々と。

「蟻がね、うっとりとくっついてるよ」

といって、Tはうれしそうにケタケタ笑う。

そうして慣れた手つきで蟻をひょいと指先にのせると、

庭先におろしてやっていた。

 

夕方からは新宿へ。

Oさんとうっかりかなしい映画を観る。

そのあと知人の展示を観に初めて2丁目のゲイバーへ。

特に妄想していたようないかがわしさなどは全くなく、

ただの居心地のいい飲み屋だった。

久しぶりに外で飲むお酒が美味しく、くいくい気持ちよく飲んでいたら

まさかこの話で泣くとは!と自分でびっくりするような場面で泣いたりしていた。

Oさんもなぜか「え?そこで泣くの?」というポイントでポロポロ泣いたりしていた。

普段はとてもドライな2人。

なのにその日は2人で身をよせあい背中をさすりあったりして、

猿山の一角のようだった。

かなしい映画のせいか、それとも2丁目の磁場か。

お勘定のとき「すいませんでした。いつもはこんなじゃないんですが

なぜか今日は2人して泣いたりしてしまい」と店主にあやまったら、

「いいのよ。だって……みんな、いろいろあるでしょ?」と、

やさしく返された。

最後のあれで新宿2丁目の懐のでかさ底力と闇の深さを、

かいま見てしまったような。

 

そのあと夜の人通りの少ない湿気た新宿をOさんとふらふら歩いていたら、

まるで静かな水の中をゆらゆらと泳いでいるようないいきもちになって、

ああ、しあわせだなあ、と心底思った。

あのキラキラした昂揚感、あれがつまり

酔っぱらっていたということであった。