9年前の自分の写真を見る。
傲慢な顔をしている。
9年前だ。
私は英国の大学にイラストを学びに行った。
しかし2年生からの編入だったので
最初の3ヶ月間は選択授業をとらねばならず、
学期が始まってもまだ募集をかけていた唯一の授業だった
陶芸をとるしかなかった。
目の前の席には、日本人らしい女性の生徒が座っていた。
「こんにちは」
と話しかけてみるが、返事がない。
日本人ではないのかも、と思い
「Hello」
と、話しかけ直してみる。
それも、返事がない。
「ニイハオ」
とも、言ってみた。
どれも返事がなかったので、耳が聞こえない人なんだなと思いなおした頃に、
「…はあ。」とも、「…はい。」ともつかないような、
吐息のようなささやき声が、聞こえてきた。
目の前の女性を見ると、こちらをぼんやりと、でもじっと、見ている。
「…日本の方ですか?」
と聞いてみたら、
こっくり、と彼女はうなずいた。
これは、えらい所に来てしまった、と私は確信した。
陶芸の先生は、ビヨークに似ていた。
そして、先生が何を言っているか、まったくわからなかった。
この場合は単に私が英語が、わからなかった。
先生は「トランスペアレント」を連発する。
トランスする両親…どういう意味だろう
それほどに危険ということかと私は想像する。
(トランスペアレントというのは「透明」ということだと、
後々になってわかることになる)
先生は土を器用にこねて、
ペラペラと喋りながら、巨大などんぐりのような形をつくった。
「あたしの初恋はハニワだったの…」
と、語っているように聞こえる。
そうして巨大などんぐりを、トロリとした白い釉薬にどぼりと、
下半分だけつけた。
すかさず釉薬からどんぐりを引き出し、天地をひっくりかえす。
どんぐりについた釉薬が、どろりと滴り落ちて、土の表面に白い痕跡をのこす。
「ラッヴリ!」
先生が、鋭い声で、いななく。
鶴のように、首がのびている。
目が、光っている。
これは…素晴らしいところへ来てしまったと、
私は深く、確信した。
そのときにつくった作品。↑
最終的にどこに飾るか自分自身と協議した結果、
学食の責任者のおにいちゃんに、ダメもとで
「菓子棚に置かせてほしい」と、お願いしにいったら
「ここはアートの学校なのに、
学食にはアートがない、残念だ!と思ってたとこなんだ!喜んで!」
と、快諾してくれた。
そのあと、そのおにいちゃんとは
会うたび、ニコニコ挨拶しあう仲に、なった。
英国って素晴らしいなとこころから、思うのは
そういうところ。
そのあとヴィクター&ウォルフのセーターを着た英国男子が
「1万円で1つ売ってくれ」と言ってきたけど、断った。
今となってはなんで、売らなかったのか、
自分自身が不思議でしょうがない。