小学生たち

友人が、駅まで送ってくれた。

わたしと入れ替わりで彼女の家を訪れる、別の友人も

そろそろ駅に着く頃だから、とのこと。

「さっきは15時にその人くるって言ってたのに、ずいぶんと早いねえ」と私がいうと

友人は「?」と訝しげな顔をした。

「早くないよ。今だって15時でしょ」

「ちがうよ。今は14時だよ」

友人が携帯電話をパカリとあけて時間を確かめる。

「14時2分」

友人は小さなこどもの声でつぶやいた。

「えっちゃん。このあとすぐ予定あるの?」

「ないよ」

「1時間まちがえてた。お昼ご飯いっしょに食べない?」

「いいよ」

「でもこのへんであたしが入ったことある店って、ふつうに、何処も、美味しくないの」

「うん」

「唯一、豆腐らーめんっていうので、有名な店があるんだけど」

「うん」

「ふつうに、そこも美味しくないの」

「…駅前に蕎麦屋が、あったような」

「わかった。蕎麦にしよう」

 

駅前の蕎麦屋へゆく。

いろいろなメニューが写真付きで、たくさん入り口に貼られているのを、見る。

友人といっしょに5分くらい、じっとそれを、見る。

見ながら、友人の着ているワンピースの柄が

キティちゃんや花や青い海やギンガムのピンクのパッチワークで

彼女の家に飾られていた絵に似ている事に、気づく。

店内に入る。

食券機を見ると、ものすごい数のボタンがズラーッと

ビルの窓のように立ち並んでいた。

友人が、食券機に千円札を飲み込ませる。

するとすべてのボタンにランプがちかりと点く。

「えっちゃん」

「うん」

「冷やし特製たぬき蕎麦はどのボタンだろう」

食券機のボタンには、文字ばかりが見える。

そしてどの文字が「冷やし特製たぬき蕎麦」なのか、皆目わからない。

どれでも同じなんじゃないかと、全てを投げやりたい気持ちに、ふとかられる。

一応、探す。

「…これじゃない?」

「ちがう。それはうどん。うどんじゃなくて蕎麦」

それを聞き、がく然とする。

「蕎麦とうどんと、押すボタンがちがうの?だからこんなにボタンがあるの?

しかもそれらがわかりやすく並んでたり、しないの?」

「うん、どうやらそうみたい。慎重にいかないとマズいよえっちん…」

友人と2人、それから、とても慎重に蕎麦屋の食券機のボタンを上から下まで、

左から右まで、右から左まで、眺めやる。

ボタンの並びの法則があるはずだ。

小学生の頃にやらされたIQテストを思い出す。

 

しばらくして食券機が、じいっと音をたてて

ゆっくりと千円札を吐き出すのを、

友人と、ぼんやりと見守った。