歌舞伎町、どじょう、異邦人であること

 

兄と飲む。

一軒目の小綺麗なタイ料理店は兄には物足りなかったらしく、

二軒目は彼が知っている店へ。

区役所通りから小さな路地をはいったところに

そのとても汚い中華料理店はあった。

煮染めた色のサンダルに真っ黄色の短いソックス、

鮮やかな朱の中華服を着た小柄なマダムがズカズカとやってくる。

「なにたべる!?シュウマイ食べる!?ゆりねセロリあるよ!

なになにたべる!?」

私達はまだメニューすらちゃんと開いていなかった。

あわててメニューを見る。

山羊の脳みそも、カエルも、あらゆる虫も、食べることができるようだ。

兄は「田うなぎとはどじょうのことですかね…」などとブツブツ言いながら、

あまり響かない声で田うなぎをたのんでいた。

やってきた田うなぎは、とにかくXO醤の味しかしなかった。

 

兄は一時、新宿界隈でアジア系外国人がやっている

日本人向けにアレンジされていないレストランを回るのを趣味としていたらしい。

あるとき、何故そのような店が好きなのか、と知人に聞かれた彼は

しばらく考えた末に

「誰もが等しく異邦人である空間が居心地よいから」

と答えたそうだ。

それを聞いた彼の知人は、ちょっと怪訝な顔をして

「でも、あなたらしいですね」と言ったらしい。

 

兄とは歌舞伎町でばかり会っているように思う。

今度、職場の人を連れてロボットレストランへ行くといいよと強くすすめたが

そこは取りあってもらえなかった。

「一般の日本人は、ひくと思います」とのこと。

 

駅までの道を歩きながら、写真をおもしろく撮る。

新宿は内臓みたいな街だなあと思う。