小学校の同級生だった木村さんが夢にでてきた。
木村さんは貧乏子だくさんなおうちの子で
すごく痩せてて目がぎょろっとしてて
垢染みたボロボロの服を着てていつも裸足で
給食をガツガツ食べてはよくゲロを吐いて
みんなが残した食べ物をポリ袋に詰めて毎日持ち帰ってた。
そして常に異臭がただよってて、男子から「キム菌」と呼ばれてた。
顔はよく見ると可愛いかった。
あと足が妙に早くてみんなから気味悪がられてた。
私が「偽善の人」とこころの中で呼び大変嫌ってた先生が、
ある日木村さんに「おうちの人に洗濯してもらってないのでしょう。
今度、洗濯物を学校に持ってきなさい。先生と一緒に洗おう」と言って
木村さんといっしょに木村さんの洋服を廊下の流しで洗濯していたのを憶えている。
「ちょっとコレ!何でこんなに汚したの!あなたおもらししたんじゃない!?
信じられない!ああもう臭い臭い!」と大げさに叫びながら洗濯する先生を見て
「ただ静かに良いことを行えないのだろうか、この人は」と
私は意地悪く思って軽蔑していたけど、今ふりかえるといいじゃないかと思う。
先生はただ思ったことをそのまま言ってしまう変わった人だったというだけだ。
傲慢なのは私だった。
夢の中の木村さんは猫を抱いてた。「わたし、猫、だあいすき」と言ってた。
実際、木村さんは動物が大好きで、学校のウサギ小屋にいりびたってはウサギをよく抱いてた。
ウサギもよく木村さんになついたし、道ゆく猫も犬も鳥も木村さんが来るとすりよった。
木村さんのお姉さんはフーゾクで働いているらしいと、ある日うわさで聞いた。
木村さんのお兄さんはヤクザの下っ端らしい、ともある日うわさで聞いた。
木村さんのお母さんはまた妊娠してるらしい、ともある日うわさで聞いた。
木村さんのお父さんはいっぱいいるらしくてどの人がお父さんかわからないらしい、ともある日うわさで聞いた。
やがて、木村さんの住んでたプレハブ小屋が
開発のためだか何だかで取り壊されて、
以来木村さんはパッタリと小学校に来なくなった。
それから何年かして、中学校に突然木村さんが現れたことがある。
木村さんは派手な化粧をして、安っぽい香水の香りをさせて、
ふしぎな形のキャミソールを着て、棒みたいな足をまるまる出して、
つま先に華奢なミュールをひっかけてた。
木村さんはその1回だけ現れて、その後はもう中学校には来なかった。
木村さんは男と暮らしてるらしいよ、とあとからうわさで聞いた。
あれから20余年。
そんな木村さんと私が、見知らぬ少女の墓参りをともにしていた。夢で。
しゃべったこともない木村さん。仲良くなりたいなんて思ったこともない木村さん。
だけど木村さんは私にとって、幼年時代たしかにそこにあった
無垢と闇を象徴する重要な人なんだと思う。