教習所に通いはじめた。
いきたい方向へ集中しながらも視野を広くもち意識を拡大させる…て
瞑想じゃん、運転。ある意味、超能力じゃん。超能力強化じゃん。
そうか、私は今エスパー養成所に通ってるんだなあ、としみじみ思いながら
道行くドライバーたちを尊敬の眼差しで見る日々。
バリに行ったとき。
ゴッドハンドをもつ、世界的なカリスマ・ヒーラーのマスターが
珍しく今、ここに、ウブドにいるよ!というポスターが貼られた
小綺麗なエステ屋さんの前をある日、通りかかった。
マスターらしき人の写真が、ポスターの中央で手を合わせていた。
またわかりやすく「マスター」な感じで、眼光鋭く、あご髭が異様に長く、
大変キャッチーに「仙人」な風貌だった。
ゴッドハンド。興味あるね。あるよね。
友人と一度宿に戻り、小金を集めて、いそいそとエステ屋さんの扉をたたいた。
ゴッドハンドの人にマッサージお願いしたいんですけど。
エステ屋の受付の綺麗な娘さんは濃い長い睫毛をふせて答えた。
申し訳ありません、ただいまマスターの施術は予約で満杯でございまして…
すると友人が、私の腕をひっぱる。
ねえ、うしろ。
私はうしろを見る。
そこには、ポスターの中で手を合わせていた「マスター」その人がいた。
美しい中庭で、彼だけが浮いていて小汚かった。
そしておそらく近所の7歳くらいの少年と、むちゃくちゃ本気で「ふんっ」などと
叫びながら、卓球をしていた。
うしろ…マスターですよね?いるけど…予約は…
予約はいっぱいでございます。
受付嬢は、目を伏せてそう言い続ける。
私と友人は笑いをこらえながら、受付嬢に聞いた。
せめてマスターと記念撮影だけでもすることは出来ますか?
それから数分後。
上機嫌だった「マスター」にがっつり肩を抱かれながら
美しい中庭で美人の受付嬢に記念撮影してもらって、
私と友人はエステ屋の外に出た。
出た瞬間、友人と、腹がこわれるんじゃないかというくらいに、笑った。
あの人は本物だね。うん、本物だったね。
こどもと本気で卓球してたしね。
あれこそが「マスター」だよ。
なぜか突然思い出した、バリの話。