母をさがす

 

12年ぶりに会った兄と、雨のなか歩きながら話す。

 

「君のつくるものは死のにおいがするが、なぜだろう」と言われ

そのことについてわたしは考え、答える。

 

「わたしたちの母は、死の世界とまではいわないけれど

いつもこことはちがう何処か、あわいの場所にいる人でしょう。

わたしは子どもの頃から横に母の身体はあるのに、

そこに母そのものはいないことをずっと寂しく思ってきたから、

絵をかくことや文章をかくことで、

その世界の何処かに母をさがしているんじゃないかと思うよ。

だから、わたしがつくるものはすべて、もしかしたら

母へのラブレターなのではないかと思う」

 

ほんとうに大事なことを言葉にするときは、

そこに嘘がまじらないか、厳しく検討しながら、慎重に話す。

 

兄は、すこし黙ったのちに

「…なるほど。わかりました。」といった。