続・おばあちゃんのハナシ/コオヒ編

大昔に書いた日記より。母方の祖母のお話です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2004/11/01 (月) コオヒ 雨 ニヒルな祖母

雨の日。

ちょっとした用があり、近所に住む

母方のおばあちゃんの家へ。十何年ぶり。

 

呼び鈴を押して、3分ぐらいしてから、

ゆっくりとおばあちゃんが現れる気配がしはじめた。

そうしたら、それまで何も考えていなかったのに、

いきなり思い出したように私は緊張しはじめた。

 

そういえば!

彼女に会うのは私、ものすごく久しぶりなんだ、

どうしよう、今までの不義理をどう説明すれば…

 

直後、ドアが訝しげに、ぎぎぎ…、と開いた。

白髪の小さな老女が、私のことを

何者だ?という目で見ている。

 

「こんにちは、いえ、おはようございます、

お久しぶりです。わたしは、あなたの娘の娘で、孫の◯○です、わかりますか?」

するとおばあちゃん、「はあ?」という顔をしてから、

全身くまなく私のことを見回し、ひと呼吸おいてからこう言い放った。

 

「…あんた、誰にも似てね!!」

 

そう、吐き捨てるやいなや、ケタケタと

楽しそうに笑いだしたのだった。

すると直後、玄関で用を済ませたらサッサと帰るつもりでいた私が、

「あの、入ってもいいですか?」

と言い放ち、確認もとらず、

図々しくも靴をぬぎはじめていたのだから、驚く。

たぶんおばあちゃんが、

「いきなりどうした?何しにきた?」

などと驚かず、すんなりと素で受け入れてくれたのが、

私をそうさせたんだと思う。

 

「今、ちょうどコオヒ入れてたところだ」

 

部屋に入ると、線香とコーヒーのいい香りがした。

思っていたよりも中はこざっぱりと整頓されていて、

おばあちゃんが丁寧に毎日を暮らしていることが、

一目でわかった。

 

「毎朝、コオヒとパンはつづけてる。

ちゃんと豆から挽くんだ。

こんなバアさんなのに、ハイカラだろう」

 

そう言って、ドリップしたコーヒーを、

なぜか1回火にかけ、グラグラと煮立たせてから、

おばあちゃんは可愛いカップに入れて「ん」と出してくれた。

おばあちゃん、コオヒは煮立たせない方が…

とも思ったが、とりあえずはここの流儀に従うことに。

コオヒを一口いただく。

とても、すっぱい。

 

「あんたが帰ってきてあんたの母親は

喜んだだろう」

 

コオヒを飲んで顔をしかめる私をみつめながら、おばあちゃんが言う。

 

「いや、喜んでないよ。

あの人が喜ぶところ、私は見たことない」

なんて私が答えたら、またおばあちゃんは、ケタケタと笑った。

そして、

 

「あんたの母親が、なんでか

しょっちゅう俺の家にシャワー借りにくるんだけどよ、

あんたんちは風呂がないのか?」

 

などと不穏なことを聞いてきた。

母が祖母の家に風呂を借りに来ていたとは、初耳である。

だけど、いかにもやりそうなことでも、ある。

 

「いや、ちゃんとうち、風呂はあるよ。

といっても戸がぶち壊れてて無いから、

1回の風呂で脱衣所がビショビショになる、かなり不思議な風呂だけどね。

たぶんお母さんは、おばあちゃんに会いたくて、

風呂を借りるのは、そのための口実なんだと思うよ」

 

と良いふうに取って返すと、

 

「まあいいんだけどよ。

毎回帰るとき玄関に、だまーって、

300円置いてくんだよな、あいつ。

おかげで金が貯まっちまってよ。

あんたに返すから持って帰ってくれ」

 

そう言って、おばあちゃん、ごっそりと私に

5000円ぶんはあろうかという、

100円玉の山を渡してくれた。

私が軽くうろたえていると、すかさずおばあちゃん、

 

「それとウチは銭湯じゃねえ、って伝えておけ」

 

とピシャリ。そして、ニヤッと笑うではないか。

昔からシニカルなユーモアのある人ではあったけど、変わってない!!

思わず彼女の切れ味の鋭さに、

ブハッ!!と吹き出してしまうと、

それにつられて、おばあちゃんもブワッハッハッハ!!と笑いだした。

あの、かなり不思議な母親のことで

共に笑える人がいることの、しあわせよ…。

 

そして、私は思い出していた。

そうだった、子どもの頃

私は彼女のこういうところが恐かったんだ。

子どもを子ども相手せず、

誰に対しても均等にニヒルで、シニカルに接するこの感じ。

だけど、今なら分かる。

この人の本質は、ニヒルでもシニカルでもない。

その証拠に、最後に彼女は私にこう言って、笑ってくれた。

 

「あのな。あんたの母親は、顔にも言葉にも出さないけど、

あんたが帰ってきた時は、こころの中ですごーく、喜んでるはずだ。

俺はあいつがうらやましい。本当にうらやましい。

あいつは、しあわせもんだ」

 

その日のおわり。

さも、蜜柑を自分のために買ったはいいものの、

量が多過ぎて余るのもなんだから、何個か引き取ってもらえます?

を装いつつ、私はおばあちゃんに買ったばかりの、蜜柑を差し出した。

それを見てとるや、

 

「あんた。わざわざ俺のために買っただろ。

まあ、いいや。ひきとってやるよ」

 

と、言い放ったおばあちゃん。

完敗です。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

この祖母も、それから何年かして他界しました。

それは私が大人の水疱瘡にかかっている最中のお正月で、

私自身は彼女のお葬式へは行けませんでした。

のちに姉に聞いたところよると、そこで会った

ものすごく久しぶりに会うイトコの男子らが、

ちょっと信じられないくらいの、ものすごいイケメンに育っていたそうです…。

まあそれはさておき。おばあちゃん、あちらでもコオヒ飲んでますかね。